歯の神経の役割と「守る治療」
神経を残すための「選択肢」
歯が痛くなったら、神経を取る。
かつての歯科医院では、こうした治療が当たり前のように行われていました。
しかし、歯の神経は安易に取り去るべきではありません。なぜなら、神経を失えば、一時的に痛みは和らぐものの、歯の寿命は確実に短くなってしまうからです。
歯の神経には、歯に栄養を届ける大事な役目があります。しかし、神経を取ってしまうと栄養を取り入れることができず、時間が経つにつれ歯は弱くなり、やがて枯れ木が折れるように割れてしまうことがあります。
神経をいかにして守るか、これは歯科医の腕が試される重要なポイントです。当院では、次の治療法で可能な限り歯の神経を守る治療を行っています。
神経を守る「生活歯髄保存療法」とは
虫歯が進行しても、神経と虫歯の間に2mm以上の距離があれば、安全な治療が可能です。この場合、レジンなどで詰め物をして治療します。しかし、距離が2mmを下回る、またはギリギリまで達した場合には「生活歯髄保存療法」を選択します。
「生活歯髄保存療法」は、虫歯の進行度に応じて異なるアプローチがあります。以下で詳しくご説明いたします。
間接覆髄法（虫歯が神経に近い場合）
神経にはまだ到達していないものの、虫歯が2mm以内に迫っていると、痛みや知覚過敏を引き起こすことがあります。そうした症例に対処するのが「間接覆髄法」です。この方法では神経がまだ覆われた状態ですが、削った穴に「MTAセメント」という薬剤を使います。MTAセメントを使用することで、次のメリットが得られます。
MTAセメントの「特性」
✅強いアルカリ性により、殺菌効果が期待できる
✅硬化の際に少しふくらむため、隙間なく密閉できる
✅歯質を強化する成分が含まれている
✅神経のまわりに保護膜をつくってくれる
直接覆髄法（神経が露出した場合）
虫歯が神経のギリギリまで達していると、削る際に神経が露出してしまうことがあります。このような場合には、露出した神経を守るために「直接覆髄法」を用います。ここでもMTAセメントを使用し、神経を直接保護します。
部分断髄法（神経の一部に炎症がある場合）
虫歯が神経に到達すると炎症を起こしますが、ごく一部の神経のみが炎症を起こしている場合、「部分断髄法」を適用できます。これは、炎症を起こした神経の一部分だけを切除し、健康な神経組織を保存する方法です。
部分断髄法でも、残存する神経をMTAセメントで覆って治療します。
CHECK歯髄温存療法は、経過観察が重要です
歯髄温存療法を行った後、一定期間を経てから検査を実施します。
これは、治療の成功と神経が正常に機能しているかを確認するためです。状態が良好であることが確認できた場合、最終的な詰め物や被せ物の処置を行い、治療を完了します。
歯のぐらつきや破損に悩む方へ
抜歯を避けるための「選択肢」
多くの歯科医院では、以下のような症状で「抜歯」が選ばれることが一般的です。
・ひどく進行した虫歯
・歯周病による歯のぐらつき
・歯の根の部分の炎症
・歯ぐきの中でのひび割れ
通常、抜歯後はインプラントや入れ歯、ブリッジといった治療へ進みますが、これらの方法は患者さんにとって少なからず負担を伴います。
近年、インプラントや入れ歯の技術は向上していますが、やはり自分の「天然の歯」に勝るものはありません。抜歯は「最後の手段」として考えるべきであり、他の治療法がある場合には安易に抜歯を選ぶべきではありません。
当院では、上記のような症例でも可能な限り抜歯を避け、患者さんの歯を活かす治療を心がけています。
次に、具体的な治療法をご紹介します。ただし、全てのケースに適用できるわけではなく、状態によっては抜歯が最善となる場合があります。
※これから紹介する治療法は、すべてのケースで適応できるものではありません。状態によっては、抜歯が最善の選択になることもあります。
エクストリュージョン法（歯を引き出す治療）
ひどい虫歯で崩壊した歯は、通常、抜歯が検討されます。これは、虫歯の部分を削って被せ物を装着する治療が基本ですが、崩壊が進んだ場合、被せ物を付ける場所がなくなるためです。
しかし、抜かずに治療する方法としてエクストリュージョン法があります。これは矯正治療の一種で、残っている歯の根を歯茎の外に引っ張り出し、新たに被せ物を取り付けるための場所を作ります。
この方法により、歯を残してしっかり噛めるようにすることができます。ただし、全てのケースで適用できるわけではないため、専門的な診断が必要です。
クラウンレングスニング（外科処置による治療）
クラウンレングスニング（歯冠長延長術）は歯周外科に属する治療法で、歯茎を下げて隠れた歯の部分を表に出すことで、抜歯を避けるために行われます。
通常、虫歯が歯茎の上に残る歯冠を失い、さらに根の部分まで進んでしまうと、ほとんどの場合は抜歯が必要になります。その理由は、クラウン（被せ物）をしっかり固定できないためです。
しかしクラウンレングスニングを行えば、治療困難な虫歯にも新たな選択肢を与えることが可能となります。
歯周組織再生療法（骨の再生による保存）
歯周病が重症化すると、歯を支える骨が溶けてしまい、次第に歯が不安定になります。このような状態では、多くの歯科医院が抜歯を選択します。時には、時間の経過とともに自然に歯が抜け落ちることもあります。
しかし、当院では、歯を支える骨を再生し安定させることで、歯を失う心配を減らすことができます。当院では「歯周組織再生療法」を用いて、重度に進行した歯周病でも可能な限り歯を残す治療を行っています。
この再生療法では、「エムドゲイン」という薬品を使用します。エムドゲインには、骨の再生を促す特殊なたんぱく質が含まれています。手術によって患部を切開し、骨がなくなった部分にこの薬品を直接塗布します。再生には個人差がありますが、おおよそ数ヶ月から1年程度で効果が見られることが多いです。
以下の動画で、エムドゲインがどのようにして骨を再生させるのかをご覧いただけます。
歯根端切除術（根の先端を切除する治療）
一般的な保険診療で行う根管治療では、歯の根の神経を取り除きます。しかし、多くの場合、その後に歯の根に炎症が再発することがあります。炎症が進行すると、最終的には抜歯が必要になることもあります。
そんな状況でも、当院では「歯根端切除術（しこんたんせつじょじゅつ」を用いることで、抜歯を避けて治療できる場合があります。この手術では、歯茎の外側を切り開き、歯の根の先端とともに膿の袋を取り除きます。その後、空洞は血液で満たされ、やがて骨が再生していきます。
破折歯牙再植（割れた歯を戻す治療）
歯の神経は、
歯に栄養を供給する血管などが含まれています。
神経を失うと、歯は栄養を取り込めなくなり、時間が経つにつれてもろくなることがあります。当院では、こうした状況を防ぐために
丁寧な根管治療を提供しています。しかし、一般的な保険診療で行われる根管治療には限界があり、
強く噛んだときや食いしばったときに、歯茎の中で歯が割れることがあります。このような場合、多くは
抜歯が必要となります。
当院では、
破折歯牙再植（はせつしがさいしょく）という術式を用いて、割れた歯でも抜かずに治療することが可能です。この方法では、まず割れた歯を一旦抜歯し、その後修復してから元の位置に戻します。患者さんの歯をできるだけ守るための選択肢として、ぜひご相談ください。
セカンドオピニオンのご案内
歯の健康を長く保つことは、私たち歯科医師の重要な使命です。
かつては神経を除去したり抜歯するしかなかったようなケースでも、技術の進歩により、自身の歯や神経を残す治療法が可能になりました。しかし、これらの先進的な治療方法が提供されている医院はまだ限られています。
「歯が痛むときは神経を取る」「歯が著しく損傷した場合は抜歯が必要」と考えている方も多いでしょう。それは一般の患者さんだけでなく、歯科医師の中にもそのように判断する人が少なくありません。
もし現在の治療で「神経を取る」あるいは「抜歯が必要」と診断されたならば、一度、他の選択肢として自然な歯を保存する治療法が検討されているかを確認してみてください。
当院ではセカンドオピニオンを受け付けています。他の選択肢を知りたい方や、抜歯を避けた治療をお探しの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
初診「個別」相談へのご案内
当院では、患者さんが抱えていらっしゃるお口のお悩みや疑問・不安などにお応えする機会を設けております。どんなことでも構いませんので、私たちにお話ししていただけたらと思います。
ご興味がある方は下記からお問い合わせください。
〒470-3235
知多郡美浜町
大字野間字中町98の3
